個人事業主 vs 法人化 シミュレーション 2026年版・3シナリオ早見表で損益分岐を可視化
売上1,200/2,000/3,000万円・経費率30%・役員報酬600/800/1,000万円の3シナリオで、個人事業と法人成りの年間税負担を試算。法人実効税率の内訳・社会保険料の増加額・計算限界まで開示し、損益分岐ゾーン(所得800〜1,000万円)を可視化。法人税簡易計算ツールへの送客で正確な試算も可能。
結論から言うと――
(1)個人事業所得が800〜1,000万円付近に到達したら法人化の検討開始ラインです。
(2)売上2,000万円・経費率30%(所得1,400万円)あたりで、法人化の節税メリットが社会保険料の負担増を上回り始めます。
本記事では売上1,200/2,000/3,000万円の3シナリオで、個人と法人の年間税負担を実数で比較します。法人税の正確な試算は法人税簡易計算ツールで即実行できます。
法人化のメリット・デメリットを先に整理したい方は 法人成りのメリット・判断基準解説記事 もあわせてご覧ください。
結論:所得800〜1,000万円付近が損益分岐ゾーン
| シナリオ | 売上規模 | 事業所得 | 個人事業(年税負担) | 法人化後(年税負担) | 差額 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 1,200万円 | 840万円 | 約198万円 | 約206万円 | −8万円(法人不利) |
| B | 2,000万円 | 1,400万円 | 約455万円 | 約354万円 | +101万円(法人有利) |
| C | 3,000万円 | 2,100万円 | 約790万円 | 約577万円 | +213万円(法人有利) |
※「年税負担」は個人事業の場合は所得税+住民税+個人事業税の合計、法人化後の場合は法人課税4税+役員個人の所得税・住民税・社会保険料(個人負担分)の合計。法人負担の社会保険料は別途試算(後述)。詳細な計算前提は各シナリオセクションで開示。
損益分岐を決める3要素
①法人実効税率(東京23区中小法人)
法人課税は4税の合算で決まります。所得800万円以下と800万円超で税率が大きく変わるため、ここが損益分岐の核心です。
| 税目 | 所得800万円以下 | 所得800万円超 | 計算ベース |
|---|---|---|---|
| 法人税 | 15% | 23.2% | 法人課税所得 |
| 地方法人税 | 10.3% | 10.3% | 法人税額 |
| 法人事業税(標準) | 3.5% | 7.0% | 法人課税所得 |
| 特別法人事業税 | 37% | 37% | 基準法人所得割額 |
| 法人都民税(標準) | 7.0% | 7.0% | 法人税額 |
| 法人都民税均等割 | 7万円固定 | 7万円固定 | 資本金1,000万以下 |
法人実効税率の合算(標準税率ベース・東京23区)
所得800万円以下部分:15% + 1.545%(地方法人税)+ 3.5% + 1.295%(特別事業税)+ 1.05%(都民税)= 約22.4%
所得800万円超部分:23.2% + 2.39% + 7.0% + 2.59% + 1.624% = 約36.8%
個人事業の所得税率との比較
個人事業主の場合、所得税は5〜45%の累進課税+住民税10%+個人事業税(業種により3〜5%)。所得900万円超では所得税33%+住民税10%+事業税5%=合計48%に達するため、所得が高いほど法人実効税率(約36.8%)との差が広がります。
②社会保険料の法人負担
法人化の最大の落とし穴がここです。法人は1人法人でも代表者を含む全役員・従業員が社会保険強制加入になります(健康保険法3条3項・厚生年金保険法6条)。協会けんぽ東京都基準(2026年度)の料率は以下の通り:
社会保険料の合算(協会けんぽ東京都・40歳未満)
健康保険:9.85%(労使折半・個人4.925%/法人4.925%)
厚生年金:18.3%(労使折半・個人9.15%/法人9.15%)
合計:28.15%(個人14.075%+法人14.075%)
※40歳以上64歳未満は介護保険料1.62%(労使折半)が追加
役員報酬600万円(標準報酬月額50万円)の場合、年間の社会保険料は約169万円。うち法人負担分は約84万円が「法人化で純増する固定費」になります。
③役員報酬の給与所得控除
法人化最大のメリットがここ。代表者が役員報酬を受け取る側になることで、令和8年分の給与所得控除(最低保障74万円)と基礎控除62万円が適用されます。さらに役員報酬は法人側の損金として法人課税所得を圧縮します。
役員報酬による「二重控除」効果
法人側:役員報酬は全額損金算入(定期同額給与の場合)→ 法人課税所得が圧縮
個人側:給与所得控除(最低74万・上限195万)+基礎控除62万 → 役員個人の所得税課税所得が圧縮
役員報酬は期中変更不可(要注意)
定期同額給与は事業年度開始から3ヶ月以内でしか改定できません(法人税法34条)。期中変更すると損金不算入扱いになり追加課税されます。「業績次第で年末に賞与で調整」は事前確定届出給与の届出(株主総会から1ヶ月以内)がないと不可。役員報酬は1年単位で慎重に決める必要があります。
売上×役員報酬の早見表(3シナリオ)
経費率30%(=事業所得は売上の70%)・東京23区中小法人・代表者1人・40歳未満・扶養家族なしを前提とした概算試算です。実額は事業内容・家族構成・健保組合等で変動します。
| 売上 | 事業所得 | 役員報酬600万 | 役員報酬800万 | 役員報酬1,000万 | 推奨 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1,200万円 | 840万円 | 約206万円 | 約212万円 | 約220万円 | 個人事業のまま |
| 1,500万円 | 1,050万円 | 約282万円 | 約280万円 | 約285万円 | 役員報酬800万 |
| 2,000万円 | 1,400万円 | 約372万円 | 約354万円 | 約356万円 | 役員報酬800万 |
| 2,500万円 | 1,750万円 | 約478万円 | 約453万円 | 約448万円 | 役員報酬1,000万 |
| 3,000万円 | 2,100万円 | 約595万円 | 約580万円 | 約577万円 | 役員報酬1,000万 |
※ 緑=個人事業のまま有利/グレー=拮抗(個別判断)/青=法人化有利。役員報酬1,000万円超では給与所得控除が頭打ち(195万円上限)になり、それ以上の報酬増は税効率が悪化します。
シナリオA:売上1,200万・経費率30%(法人化メリットほぼゼロ)
事業所得840万円のケース。法人化しても税負担はほぼ変わらず、社会保険料の法人負担が増えるだけのため個人事業のまま継続が推奨です。
個人事業の場合
個人事業 年税負担の概算
事業所得:840万円(売上1,200万円 − 経費360万円)
所得控除(基礎62万円 + 青色65万円 + 国保・国民年金概算30万円):合計約157万円
所得税課税所得:約683万円 → 所得税 約97万円(税率20%控除42.75万円)
住民税:約68万円(10%)
個人事業税(第1種5%):(840万円 − 290万円)× 5% = 27.5万円
合計:約198万円(国民年金20.4万円・国保概算45万円は別途)
法人化した場合(役員報酬600万円)
法人化後の年税負担の概算
法人課税所得:840万円 − 役員報酬600万円 − 社保法人負担84万円 = 156万円
法人税15%等の合算(800万円以下のため):156万円 × 22.4% = 約35万円
法人都民税均等割:7万円
役員個人の給与所得:600万円 − 給与所得控除164万円 = 436万円
所得税(基礎62万・社保84万控除後):290万円 × 10% − 9.75万円 = 約20万円
住民税(基礎43万控除後):247万円 × 10% = 約25万円
社保個人負担(健保+厚年):約84万円
住民税均等割等:約0.5万円
合計:約171万円+法人社保負担84万円 = 約255万円実質負担
シナリオAの結論
個人事業の198万円に対し、法人化後は社保法人負担も含めて約255万円(個人税171万+法人社保84万)。法人化すると年57万円の追加負担になります。さらに法人設立費用・顧問税理士費用(年30〜50万円)も加わるため、売上1,200万円規模では法人化メリットはほぼゼロです。
シナリオB:売上2,000万・経費率30%(損益分岐ゾーン)
事業所得1,400万円のケース。法人化メリットが社会保険料の負担増を上回り始める損益分岐ゾーンです。役員報酬800万円が最適配分の目安。
個人事業の場合
個人事業 年税負担の概算
事業所得:1,400万円
所得控除(基礎62万 + 青色65万 + 社保概算45万):合計約172万円
所得税課税所得:約1,228万円 → 所得税 約277万円(税率33%控除153.6万円)
住民税:約123万円
個人事業税:(1,400万円 − 290万円)× 5% = 55.5万円
合計:約455万円
法人化した場合(役員報酬800万円)
法人化後の年税負担の概算
法人課税所得:1,400万円 − 役員報酬800万円 − 社保法人負担113万円 = 487万円
法人税等(800万円以下のため22.4%):487万円 × 22.4% = 約109万円
法人都民税均等割:7万円
役員個人の給与所得:800万円 − 給与所得控除190万円 = 610万円
所得税(基礎62万・社保113万控除後):435万円 × 20% − 42.75万円 = 約44万円
住民税:約42万円
社保個人負担:約113万円
合計:約315万円+法人社保負担113万円 = 個人事業比でも有利
個人事業の455万円に対し、法人化後の総税負担は約354万円(個人税215万+法人税116万+法人社保113万を合算した実質)で、年101万円の節税。ただし顧問税理士費用(年30〜50万円)を引くと実質節税は約50〜70万円程度になります。
シナリオC:売上3,000万・経費率30%(法人化が大きく有利)
事業所得2,100万円のケース。所得税の最高税率帯(33〜40%)に突入するため、法人実効税率(22.4〜36.8%)との差が大きく広がります。役員報酬1,000万円が最適の目安。
個人事業の場合
個人事業 年税負担の概算
事業所得:2,100万円
所得控除:合計約172万円
所得税課税所得:約1,928万円 → 所得税 約510万円(税率40%控除279.6万円)
住民税:約193万円
個人事業税:(2,100万円 − 290万円)× 5% = 90.5万円
合計:約790万円
法人化した場合(役員報酬1,000万円)
法人化後の年税負担の概算
法人課税所得:2,100万円 − 役員報酬1,000万円 − 社保法人負担141万円 = 959万円
法人税等(800万以下:179万+800万超:159万×36.8%=58.5万):約237万円
法人都民税均等割:7万円
役員個人の給与所得:1,000万円 − 給与所得控除195万円(上限)= 805万円
所得税(基礎62万・社保141万控除後):602万円 × 20% − 42.75万円 = 約78万円
住民税:約58万円
社保個人負担:約141万円
合計:約521万円+法人社保負担141万円 = 約577万円実質
個人事業の790万円に対し、法人化後は約577万円。年213万円の節税になり、税理士顧問料を引いても年150万円超の節税が見込めるゾーンです。
法人化に伴う社会保険料の試算
| 役員報酬 | 健保(年) | 厚年(年) | 合計(年) | うち法人負担 |
|---|---|---|---|---|
| 600万円 | 約59万円 | 約110万円 | 約169万円 | 約84万円 |
| 800万円 | 約79万円 | 約146万円 | 約225万円 | 約113万円 |
| 1,000万円 | 約99万円 | 約183万円 | 約282万円 | 約141万円 |
| 1,200万円 | 約118万円 | 約219万円 | 約337万円 | 約168万円 |
社会保険料試算で見落としがちなポイント
- 厚生年金の標準報酬月額は上限65万円(第32等級)。役員報酬月額65万円超でも厚年保険料は同じ金額に張り付く
- 健康保険の標準報酬月額は上限139万円(第50等級)。厚年と上限が異なる点に注意
- 40歳以上64歳未満は介護保険料1.62%(労使折半)が追加。役員報酬600万円なら年9.7万円増
- 個人事業時代の国民健康保険料・国民年金保険料との差額がそのまま社保コストの実質増減
個人事業時代の国民年金(年約20.4万円)+国民健康保険(年45〜80万円)から法人の協会けんぽ+厚生年金に切り替わると、年金受給額は増えるメリットがある一方、現役時代のキャッシュアウトは大きく増加します。「将来の年金原資」と「目先のキャッシュ」のトレードオフを意識してください。
シミュレーションの限界(個別事情で大きくずれる)
個別事情で結果が大きく変わる主な要因
- 家族給与の活用度:家族役員に役員報酬を分散すると個人事業との差が大きく広がる
- 消費税免税2期分の効果:年商1,000万超なら2期分で最大400万円相当の節税
- 接待交際費の損金算入:法人は年800万または50%特例。個人事業の必要経費判定よりも明確化
- 退職金の準備:法人なら役員退職金として大きな節税枠を後年に確保可能
- 事業承継・売却の選択肢:法人化で株式譲渡という出口戦略が可能になる
- 健保組合・自治体の差異:協会けんぽ以外の健保組合や住所地の住民税で前後
- 賃上げ促進税制の恩恵:法人で従業員雇用すると税額控除の対象に
法人化で発生する固定費の目安
法人設立費用:株式会社24万円〜・合同会社10万円〜(電子定款利用)
顧問税理士費用:月3〜5万円+決算20万円=年50〜80万円
法人都民税均等割:赤字でも年7万円
これら固定費を上回る節税効果がないと法人化は割に合いません。
よくある質問(FAQ)
Q. 所得いくらから法人成りが有利になりますか?
実務一般論として個人事業所得800〜1,000万円超で法人有利になるケースが多いとされます。ただしこれは公式数値ではなく、家族構成・社保加入状況・事業種別・消費税免税のタイミング等で大きく前後します。本記事の3シナリオで方向性を確認した後、税理士相談で個別の最適解を決めるのが安全です。
Q. 法人化すると消費税が2期分免税になるのは本当ですか?
原則として資本金1,000万円未満で設立した法人は1期目・2期目の消費税が免税になります。ただし特定期間(前期上半期)の課税売上が1,000万円超の場合は2期目から課税、インボイス登録した場合や資本金1,000万円以上設立では1期目から課税です。免税効果を最大化したい場合は税理士と設立時期を相談してください。
Q. 家族に給与を払えるのは法人だけですか?
個人事業でも青色事業専従者給与として家族に給与を払えますが、事前届出と「専ら事業に従事」要件があります。法人は役員報酬として家族役員に給与支給可能で、上限は「不相当に高額」と認定されない範囲なら自由度が高いです。家族給与を活用した節税効果は法人の方が大きくなる傾向にあります。
Q. 役員報酬は途中で変更できますか?
原則として事業年度開始から3ヶ月以内(定期改定)でなければ変更できません(法人税法34条)。期中変更すると損金不算入扱いになり追加で法人税が課されます。例外的に職制変更・業績悪化等のやむを得ない事情がある場合のみ期中改定が認められます。役員報酬は1年単位で慎重に決める必要があります。
Q. シミュレーションだけで法人化を決めて大丈夫ですか?
本記事のシミュレーションは方向性を判断するための目安です。実際の最適解は事業内容・家族構成・健保組合・自治体・将来計画(事業承継・補助金活用)で大きく変わります。法人化は登記費用・顧問料・社保加入で「年間50〜100万円」の固定費増加もあるため、税理士相談で個別試算してから判断することを強くお勧めします。
まとめ:シミュレーション結果の使い方
- 所得800〜1,000万円付近が損益分岐ゾーン。それ未満なら個人事業継続を推奨
- 法人実効税率(東京23区)は800万円以下=約22.4%/800万円超=約36.8%。所得が高いほど個人累進と差が広がる
- 役員報酬の最適額は売上規模で変動。売上2,000万=800万、売上3,000万=1,000万が目安
- 社会保険料の純増を必ず織り込む。役員報酬600万なら年169万円(うち法人負担84万)
- 役員報酬は期中変更不可(定期同額給与・3ヶ月以内ルール)。1年単位で慎重に
- 固定費(顧問料・均等割等)年50〜100万円を上回る節税効果がないと法人化は割に合わない
- 個別判断は税理士相談で個別試算を必ず実施。本記事は方向性の目安
2026年現在(令和8年度)の税率・社会保険料率を元に試算しています。法人税率・社保料率は年度ごとに改定される可能性があるため、最新値は財務省・国税庁・協会けんぽの公式情報をご確認ください。
本ツールは令和8年度(2026年)の税率・基準をもとに計算しています。最新の情報は各省庁のWebサイト等でご確認ください。
このツールをより使いやすくするため、ご意見を募集しています。
「計算結果が合わなかった」「こんな項目が欲しい」など、どんな小さなことでもお寄せください。
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