雇用保険料とは?
雇用保険料とは、雇用保険制度の運営費として、労働者と事業主が賃金総額に応じて納める保険料です。 失業給付(基本手当)・育児休業給付・教育訓練給付などの財源になるほか、 事業主側の料率には雇用保険二事業(雇用安定事業・能力開発事業)分が上乗せされています。 そのため、料率は労使で折半ではなく事業主負担のほうが高い構造になっています。
こんな場面で使えます
- 飲食店オーナーがパート採用時: 「月13.2万円で1人採用。雇用保険料はいくら天引きすればいい?」を即確認
- 転職者の給与明細チェック: 給与明細の雇用保険欄が合っているか、自分で逆算して検算したいとき
- 社労士・税理士が顧問先への説明資料を作成: 業種別・月額/年額で3パターン一気に試算
- 採用コスト見積もり: 被保険者負担+事業主負担の合計(労使合計)を確認し、月次の固定費にどれだけ乗るかを把握
社会保険(健康保険・厚生年金)との違い
- 保険料は賃金総額に直接料率をかける(標準報酬月額を使わない)。 通勤手当も含めた総支給額がそのまま対象
- 月ごと・賞与ごとに料率を掛けて計算する(健保・厚年のような等級表がない)
- 加入要件が緩やか: 週20時間以上+31日以上の雇用見込みで加入(社保は原則30時間基準)
雇用保険料率の業種区分(令和8年度)
雇用保険料率は労災保険のような細かい業種分類ではなく、3業種に大きく分かれています。 令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の料率は次のとおりです。
| 業種 | 被保険者負担 | 事業主負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | 0.55% | 0.90% | 1.45% |
| 農林水産・清酒製造の事業 | 0.65% | 1.00% | 1.65% |
| 建設の事業 | 0.65% | 1.10% | 1.75% |
事業主負担が被保険者負担より高いのは、雇用保険二事業(雇用安定事業0.35% + 能力開発事業の一部)が 事業主側だけに上乗せされているため。建設業と農林水産業は、季節労働・短期雇用が多く失業給付の支給実績が高いため、 本体料率も一般業種より高めに設定されています。
「一般の事業」に含まれる業種
一般の事業は、建設業と農林水産・清酒製造業以外のすべての業種を指します。代表的なものは以下のとおりです。
- 卸売・小売業(コンビニ・飲食店・量販店など)
- サービス業(美容・宿泊・コールセンターなど)
- 金融・保険業
- 情報通信・広告業
- 製造業(食品・機械・電子部品など。清酒製造のみ別区分)
- 医療・福祉
令和8年度の所得税・基礎控除大型改正の影響
令和8年度には所得税の基礎控除・給与所得控除の大型改正が予定されていますが、 これは雇用保険料には影響しません(雇用保険は賃金総額ベースのため)。 ただし給与計算ソフト側で税額表と雇用保険料率の双方を更新する必要があるため、 人事労務担当者は両方の改正を同時に確認してください。
計算例|月給30万円・一般業種の場合
月給30万円(通勤手当込み・一般業種)の従業員1人を例に、月額の雇用保険料を計算します。
| 区分 | 計算式 | 金額(月額) |
|---|---|---|
| 被保険者負担(労) | 300,000円 × 0.55% | 1,650円 |
| 事業主負担 | 300,000円 × 0.90% | 2,700円 |
| 労使合計(月額) | 300,000円 × 1.45% | 4,350円 |
月給30万円なら、本人天引きは毎月1,650円、年間で19,800円。 会社負担は毎月2,700円、年間で32,400円です。 賞与(夏冬2回・各1ヶ月分)を支給する場合は、賞与額にも同じ料率を掛けて加算します。
建設業(合計1.75%)なら同じ月給30万円で労使合計5,250円、年間63,000円。 農林水産・清酒製造(合計1.65%)なら労使合計4,950円、年間59,400円となります。
雇用保険の適用対象(31日・20時間ルール)
雇用保険は、以下の2つの要件を両方満たす労働者が原則加入対象になります。 パート・アルバイト・契約社員でも該当します(役員・個人事業主本人は対象外)。
- ① 31日以上の雇用見込みがあること
契約期間が31日以上、または契約更新の定めがある(更新しないと明示されていない)場合を含む - ② 1週間の所定労働時間が20時間以上
所定であり、実労働時間ではない点に注意。月により変動する場合は4週平均などで判定
判定に迷うケース
- 昼間学生: 原則として雇用保険の適用除外。ただし卒業後も継続雇用される場合や 休学中・通信制・定時制は加入対象になることがある
- 65歳以上で複数事業所勤務: 2022年施行の「マルチジョブホルダー制度」で、 2社合算で週20時間以上なら本人申出で加入可能
- 日雇い・短期の臨時労働: 31日未満でも反復更新が予定されていれば対象になりうる
- 代表取締役・個人事業主本人: 労働者ではないため適用外
適用対象かどうかの正確な判定は、ケースバイケースの判断が多くあります。 個別事情がある場合は、管轄のハローワーク(雇用保険適用事業所窓口)、 または社会保険労務士にご確認ください。本ツールの「適用対象チェック」モードは、 あくまで原則ルールに基づく1次スクリーニングとしてご利用ください。
端数処理の実務
雇用保険料の端数処理は「通貨の端数計算に関する法律」施行令第1条が原則ルールです。
- 被保険者負担分の端数: 50銭以下切捨て・50銭超切上(1円未満の端数処理)
- 事業主負担分の端数: 同上
- 労使で別々に計算: 合計額から折半するのではなく、それぞれの料率で個別計算してから端数処理
特約による別ルール
ただし、同法施行令は「ただし書き」で、事業主・労働者間の特約で別の端数処理を定めることを認めています。 実務では以下のような運用も見られます。
- 1円未満はすべて切り捨てる(労働者有利)
- 1円未満はすべて切り上げる(事業主管理簡素化)
- 一般的な四捨五入を採用する
就業規則・給与規程で端数処理方法が明記されている場合はそれに従います。 規定がない場合は法定の「50銭ルール」が適用されます。
計算結果が給与明細と合わない場合
本ツールで計算した被保険者負担額と、実際の給与明細の雇用保険料が合わない場合、 以下の要因が考えられます。
よくある差異の原因
- 端数処理の違い: 本ツールは「通貨の端数計算に関する法律」施行令第1条の原則 (50銭以下切捨て・50銭超切上)で計算しています。 しかし、労使間の特約により「1円未満切捨て」「1円未満切上」を採用している会社もあります。 この場合、月次で最大1円の差が出ます
- 通勤手当の扱い: 雇用保険は通勤手当も賃金に含めて計算しますが、給与計算ソフトの設定ミスで 通勤手当を除外して計算しているケースがあります
- 給与締め日をまたぐ賃金の範囲: 残業代・遅刻早退控除・賞与の月額反映タイミングなどで、 「その月の賃金総額」の定義が会社によって異なる場合がある
- 業種区分の違い: 同じ会社でも複数事業をもつ場合、主たる事業で適用される料率が変わる可能性がある
- 年度切替のタイミング: 料率改定は毎年4月1日から。3月分まで旧料率、4月分から新料率
本人が確認できること
- 給与明細に記載された「課税支給合計」または「総支給額」と、本ツールの入力値が同じか
- 勤務先が属する業種区分(就業規則・雇用契約書・会社HP)
- 差額が大きい場合(数百円以上)は、人事労務担当 → 社会保険労務士 → 労働局 雇用保険課の順に問い合わせ
1〜2円程度の差異なら端数処理の違いの可能性が高く、業務的には問題ありません。 しかし、毎月数百円以上ズレる場合は、 社会保険労務士または勤務先の人事労務担当に照会することをおすすめします。 ツールの計算結果をエビデンスとして持参するとスムーズです。
自社計算 vs 給与計算ソフト
雇用保険料の計算は料率を掛けるだけですが、毎月の通勤手当・残業手当を含めた賃金総額の特定、 週20時間判定、年度更新(毎年7月)の事務処理まで含めると、規模が大きくなるほど工数が増えていきます。 規模別の判断目安は次のとおりです。
自社で計算する
- 月額コストゼロで運用できる
- 料率変更にも自分のペースで対応できる
- 計算の中身を完全に理解した上で従業員に説明できる
- 従業員数が少ない(5名以下程度)ならExcelで十分回せる
給与計算ソフトを導入する
- 料率改定が自動反映されミスを防げる
- 通勤手当・残業手当の集計と賃金総額算出を自動化
- 年度更新(労働保険料申告)の書類出力まで対応
- 社員数の増加・複数事業所への対応が容易
規模別の判断目安(毎月の雇用保険料計算)
| 従業員規模 | 月の計算所要時間(目安) | 人件費換算 | 導入判断の目安 |
|---|---|---|---|
| 1〜5名 | 約15分〜30分 | 約750〜1,500円 | 自社計算でも十分 |
| 6〜15名 | 約1〜2時間 | 約3,000〜6,000円 | 給与計算ソフトの導入を検討する価値が高い |
| 16名以上 | 約3時間〜 | 約9,000円〜 | 給与計算ソフトの導入がほぼ必須 |
この表は「毎月の雇用保険料計算だけ」を切り出した目安です。 年度更新(毎年7月10日まで)の事務処理、週20時間判定の見直し、外国人労働者の届出など 事務全体を含めると、規模を問わず社労士・労務代行サービスとの組み合わせが現実的になります。
こんな会社は給与計算ソフトを検討すべき
- 従業員10名以上で毎月の計算工数が増えている: 自社計算の人件費がソフト料金を上回りやすい規模
- パート・アルバイトの入退社が多い: 31日要件・20時間要件の判定を毎回手作業で行うのは負担大
- 年度更新を毎年慌てて対応している: 給与計算ソフトなら年度更新の集計と申告書出力が自動化
- 業種区分の判定に迷ったことがある: 設定段階で業種を確定すれば、以降は自動で正しい料率が適用される
よくある質問(FAQ)
Q1. 週20時間の判定に残業時間は含めますか?
所定労働時間で判定するため、原則として残業時間は含めません(雇用保険法施行規則3条の2)。たとえば所定18時間+恒常的残業4時間=実態22時間でも、所定が20時間未満なら原則対象外です。ただし、契約上は19時間でも実態として継続的に20時間以上勤務している場合、ハローワークの実態調査で適用対象と判定されるケースもあります。月により所定時間が変動する場合は、4週平均で判定します。判定に迷う場合は管轄のハローワークに事前確認するのが確実です。
Q2. 65歳以上のマルチジョブホルダー制度とは何ですか?
2022年1月施行の制度で、65歳以上の労働者が2社以上で勤務している場合、いずれの会社でも単独では週20時間に満たなくても、2社合算で週20時間以上(うち1社あたり5時間以上)あれば本人申出により雇用保険に加入できる仕組みです(雇用保険法37条の5)。失業時には2社の賃金を合算して基本手当が算定されます。申出は労働者本人がハローワークに行う必要があり、事業主からの強制加入は不可。年金受給と併給可能で、シニアの複数事業所勤務の安全網として機能します。
Q3. 外国人労働者の雇用保険加入要件は?
在留資格に応じて異なります。就労可能な在留資格(技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能等)を持つ外国人は、日本人と同じ加入要件(週20時間・31日以上)で雇用保険に加入します。「特定活動46号(本邦大卒者)」「家族滞在」も同様。一方、在留資格に基づく就労時間制限(資格外活動週28時間以内など)がある留学生・家族滞在者で、その制限内かつ20時間以上勤務の場合は加入対象。事業主は雇入れ時・離職時にハローワークへ「外国人雇用状況届出」も必須(労働施策総合推進法28条)。
Q4. 年度途中で業種が変わったら料率はどうなりますか?
事業所単位で「主たる事業」の業種区分が決まるため、副業的に建設業を追加しても原則は主業の料率を継続適用します。ただし、事業の構成比が大きく変わって主業が建設業や農林水産業に変わる場合は、労働保険年度更新(毎年7月10日まで)で業種区分の変更届出を行い、その年度から新料率を適用します。年度途中で個別に切り替えることは原則としてできず、年度更新時に一括で見直すのが実務です。判断に迷う場合は管轄の労働基準監督署・労働局に確認してください。
Q5. 過去の未加入期間がある場合、遡及加入は何年まで可能ですか?
原則として最長2年間まで遡及加入できます(雇用保険法22条・労働保険徴収法32条)。さらに、給与明細等で雇用保険料が天引きされていた事実が確認できる場合は、2年を超えても遡及加入できる特例があります(2010年10月から運用、雇用保険法附則)。遡及加入には事業主が「雇用保険被保険者資格取得届」を遡及提出し、過去分の保険料(労使両方)を一括納付する必要があります。本人主導でハローワークに申し出ることも可能で、未加入が事業主の故意・過失と判明した場合は是正命令が出ます。
Q6. 役員報酬を受け取る代表取締役は加入できますか?
原則として加入できません。代表取締役は「事業主」であり「労働者」ではないため、労働者を対象とする雇用保険の被保険者にはなれません(雇用保険法4条)。ただし、兼務役員(取締役兼部長など)で、労働者としての業務実態と報酬が明確に区分でき、報酬総額に対する役員報酬の割合が低い場合は、ハローワークの個別判定で被保険者として認められるケースがあります(雇用保険業務取扱要領)。判断には「兼務役員雇用実態証明書」の提出と総合的な実態確認が必要で、社労士への相談が確実です。
Q7. 年度更新(労働保険料申告)はいつ・どうやりますか?
毎年6月1日〜7月10日に、前年度(4/1〜3/31)の確定保険料と当年度の概算保険料をまとめて申告・納付します(労働保険徴収法19条)。手続きは「労働保険概算・確定保険料申告書」を所轄労働基準監督署または労働局に提出。電子申請(e-Gov)も可能。概算保険料は3回分割納付(7月・10月・翌1月)も選択でき、口座振替を併用すれば期日延長もあります。年度更新を忘れると延滞金・追徴金が発生するため、給与計算ソフトのカレンダー機能や社労士サポートで管理するのが安全です。
Q8. 雇用保険料の計算でよくある間違いは?
実務でよく見られる間違いは5つあります。①通勤手当を除外して計算(雇用保険は通勤手当も賃金に含める)、②業種区分の誤適用(事業の実態と異なる料率を使う・建設業の元請下請関係を見落とす)、③料率改定タイミングの遅延(毎年4月1日から新料率だが、3月分まで旧料率)、④端数処理の特約を就業規則に明記しないまま運用、⑤週20時間判定で実労働時間で誤判定(所定労働時間で判定)。これらは労基署の調査で指摘されると過去2年遡及で追徴・還付の対応が必要になります。
出典・編集情報
本ツールおよび解説は、以下の公的機関の公表情報を一次ソースとして作成しています。
- 厚生労働省 雇用保険制度
- 雇用保険法(第68条: 保険料の負担)
- 雇用保険法施行規則(加入要件・適用対象)
- 厚生労働省告示「令和8年度の雇用保険料率」(一般1.45% / 建設1.75% / 農林水産・清酒製造1.65%)
- 通貨の端数計算に関する法律・施行令第1条(50銭以下切捨て・50銭超切上)
- 労働保険徴収法(賃金の定義・納付方法)
未対応・注意事項
- 加入/非加入の判定に迷うケース(週20時間境界・短期契約の反復・二重雇用など)は社労士へ
- 過去の未加入期間がある場合の遡及加入・追納の必要性判断は社労士へ
- 外国人労働者の加入要件(在留資格ごとに違う)は社労士・労働局へ
- 雇用保険に関するトラブル(未加入・未納・脱退手続き等)は労働局雇用保険課へ
執筆: 業務計算ポータル編集部 / 最終更新: 2026年5月25日
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※ 計算結果は参考値です。正式な手続きには管轄のハローワーク・労働局、または社会保険労務士にご確認ください。